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空間平均速度とは何か【技術士一次試験過去問の解法】

 「空間平均速度」は,交通工学において取り扱う速度の考え方です.本記事ではその定義や概念について,桑原雅夫 著「交通流理論―流れの時空間変化をひも解く」を参考に整理しました.
 また,空間平均速度はしばしば技術士一次試験(建設部門)でも「都市及び地方計画」の分野で出題されます.いくつかの参考書では,空間平均速度を問う問題は難解な上,式を知っていなければ解けないため捨て問とするべきという旨の解説もありますが,概念を理解すればそれほど難しいものではありません.この記事の後半では技術士一次試験の過去問の解法についても記載します.
 なお,その他の「都市及び地方計画」で頻出の事項はこちらでもまとめています.

空間平均速度の定義

空間平均速度の定義

 時空間の領域Aにおいて,交通状態を表す交通流率 q(A)[台/単位時間],交通密度 k(A)[台/単位距離],空間平均速度 v_s(A)[単位距離/単位時間]は,それぞれ次のように定義されます.


\begin{equation}
q(A) = \dfrac{1}{|A|} \sum_{i} d_i(A) \\
k(A) = \dfrac{1}{|A|} \sum_{i} \tau_i(A)\\
v_s(A) = \dfrac{\sum_{i} d_i(A)}{\sum_{i} \tau_i(A)} = \dfrac{q(A)}{k(A)}
\end{equation}
 ここで,
   |A|:領域内の面積
   d_i(A):車両 iの領域A内の走行距離
   \tau_i(A):車両 iの領域A内の走行時間

 空間平均速度は,上述の式のとおり,時空間の任意の領域内の(総走行距離)/(総走行時間)で定義されるものです.

 また,交通工学においては,上述の式より示される  q(A) = k(A) \cdot v_s(A) という関係は,常に成立する重要な式となります.

すべての車両の走行距離が等しいときの空間平均速度の式の導出

 さて,路側から交通を観測した場合のように,狭い範囲の車両のみ観測した場合などでは,どの車両も走行距離が等しくなる( = L)とみなせるため,次のようにも表すことができます.


\begin{equation}
q(A) = \dfrac{1}{|A|} \sum_{i} d_i(A) = \dfrac{n \cdot L}{T \cdot L} = \dfrac{n}{T} \\
k(A) = \dfrac{1}{|A|} \sum_{i} \tau_i(A) = \dfrac{1}{|A|} \sum_{i} \dfrac{d_i(A)}{v_i} = \dfrac{1}{T}\sum_{i}\dfrac{1}{v_i} \\
v_s(A) = \dfrac{\sum_{i} d_i(A)}{\sum_{i} \tau_i(A)} = \dfrac{\dfrac{n}{T}}{\dfrac{1}{T}\sum_{i}\dfrac{1}{v_i}} = \dfrac{n}{\sum_{i}\dfrac{1}{v_i}}  \\
\end{equation}
 ここで,
   v_i=\dfrac{d_i(A)}{\tau_i(A)}:車両 iの領域内の平均速度
   L = d_i(A), \forall{i}:観測距離
   T:観測時間
   n:総車両数

 このように,空間平均速度 v_sは,個別車両の速度v_iの算術平均ではなく,調和平均となります.なお,算術平均したものは時間平均速度といいいます.


\begin{equation}
v_t(A) = \dfrac{\sum_{i} v_i}{n} \\
\end{equation}
:領域Aの時間平均速度


 ここまで,空間平均速度の導出について説明しました.導出はやや難解ですが,よく出題される問題を解くには,空間平均速度が個別の車両の調和平均で表されるという式だけ覚えておけば十分です.次に,実際によく出題される問題を見てましょう.

技術士一次試験(建設部門)での過去の出題例

 過去の技術士一次試験で出題された問題を紹介します.

令和元年度再試験

Ⅲ-15
 道路区間400mの両端で交通量を60秒間観測し,3台の車両を観測した.各車両は60km/h,60km/h,30km/hの一定速度で走行していた.このとき時間平均速度は50km/hになるが,空間平均速度に最も近い値はどれになるか.
① 45km/h  ② 48km/h  ③ 50km/h  ④ 52km/h  ⑤ 55km/h

解法1:速度の調和平均より導出

 上述の空間平均速度の式を覚えていれば,代入するだけで解けます.


\begin{equation}
v_s(A)= \dfrac{n}{\sum_{i}\dfrac{1}{v_i}} = \dfrac{3}{\dfrac{1}{60} + \dfrac{1}{60} + \dfrac{1}{30}} = 45 \\
\end{equation}
[km/h]
 したがって,答えは①45km/hです.この場合は問題文中にある道路区間400mという距離の値は用いないので,惑わされないように気を付けましょう.

解法2:空間平均速度の定義より導出

 式を覚えていない場合でも,空間平均速度は(総走行距離)/(総走行時間)という定義を思い出せば,回答を導き出すことも可能です.


\begin{equation}
v_s(A)= \dfrac{\sum_{i} d_i(A)}{\sum_{i} \tau_i(A)}  =\dfrac{\sum_{i} d_i(A)}{\sum_{i} \dfrac{d_i(A)}{v_i(A)}}= \dfrac{0.4 \cdot 3}{\dfrac{0.4}{60} + \dfrac{0.4}{60} + \dfrac{0.4}{30}} = 45 \\
\end{equation}
[km/h]

平成28年

Ⅲ-15
 道路区間400mの両端で交通量を60秒間観測し,3台の車両を観測した.各車両は30km/h,30km/h,60km/hの一定速度で走行していた.このとき時間平均速度は40km/hになるが,空間平均速度に最も近い値はどれになるか.
① 32km/h  ② 36km/h  ③ 40km/h  ④ 45km/h  ⑤ 50km/h

 令和元年度再試験とほぼ同様の問題なので,解説は割愛します.答えは②36km/hとなります.


 ここ数年では技術士一次試験で出題されているのはこの2問のみのため,傾向から考えれば上述の解法を覚えていればまず問題ないでしょう.

参考文献

交通流理論―流れの時空間変化をひも解く

交通流理論―流れの時空間変化をひも解く

www.engineer.or.jp

更新履歴

2020/12/06 参考文献のリンク先を更新
2021/04/25 微修正